大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)129号 判決 1948年6月12日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人平野安兵衞の本件上告趣意書は提出期間の末日である昭和二十三年三月三十日上告趣意書を當裁判所に提出したのであるが、その辯護届は右期間經過後の四月二日提出せられたのであるから、右の上告趣意書は辯護人でないものが提出したこととなり適法な上告趣意書と認めることはできない。けだし、刑事訴訟法第四百二十三条が最初に定めた公判期日の十五日前迄に上告趣意書を上告裁判所に提出すべき旨を規定しているのは、上告裁判所は職權を以て調査すべき事項の外は上告趣意書に包含せられている事項に限り調査すべきもの(同法第四百三十四條)で、公判期日迄に、或は部員をしてそれについての報告書を作成せしめ(同法第四百二十九條)或はこれを作成させないにしても裁判所自身として上告理由の當否について調査研究を遂げる必要があるばかりでなく、上告の對手人に對し速にその謄本を送達し(同法第四百二十六條)對手人はこれを受取った日より十日以内に答辯書を提出することができる(同法第四百二十八條)等、これを基本として公判期日迄に順を追うて進めなければならないいろいろな手續があるからであって、假に上告趣意書提出期間經過後最初に定めた公判期日迄に辯護届が提出されたとしても、それから上述の手續を進めたのでは十分にその目的を達することができないのであるから、この上告趣意書提出期間は厳に遵守されなければならぬ。從って期間後の辯護届の提出によって、遡って、前の上告趣意書を有効とすることは許されないのである。尤も同辯護人は原審における被告人の辯護人であって、本件では、原審辯護人の資格において被告人とは別に上告の申立をしているのであるが、刑事訴訟法第三百七十九條が原審における辯護人に上告申立の權限を認めたのは、被告人の利益を保護するために特にそれだけを許容した趣旨であって、上訴審において被告人のために辯論したり、上告趣意書を提出する等、上訴審における訴訟行爲をする權限まで認めたものとは解することができないから、同辯護人の上告趣意書を上告申立人の提出した上告趣意書として有効なものと取扱うこともまた許されないのである。要するに、辯護人平野安兵衞の上告趣意書は、上告趣意書としての効力がないのであるから、これに對しては當裁判所は説明をあたえない。以上の次第であるから刑事訴訟法第四百四十六條により主文のとおり判決する。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例